映画「獣人雪男」【感想】全てはチカの物語。ゴジラと同一スタッフで製作された幻の秘境怪奇譚![完全ネタバレあり!]

映画

「ゴジラ」「透明人間」「ゴジラの逆襲」に続く、東宝特設映画の第4段は、切なく、哀しい愛の物語でした。
ソフト化の実現が待たれる特撮感動巨編「獣人雪男」の感想、さっそく行ってみましょー!

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概要

スタッフ

  • 製作:田中友幸
  • 原作:香山滋
  • 脚本:村田武雄
  • 撮影:飯村正
  • 美術:北辰雄
  • 録音:西川善男
  • 照明:横井総一
  • 音楽:佐藤勝
  • 特殊技術:円谷英二
  • 美術:渡辺明
  • 合成:向山宏
  • 照明:城田正雄
  • 監督助手:岡本喜八
  • 編集:庵原周一
  • 音響効果:三縄一郎
  • 現像:東宝現像所
  • 製作担当者:黒田達雄
  • 監督:本多猪四郎

キャスト

  • 飯島高志:宝田明
  • チカ:根岸明美
  • 武野道子:河内桃子
  • 小泉重喜:中村伸郎
  • 中田:堺佐千夫
  • 爺様:髙堂國典
  • 大場:小杉義男
  • 大場の仲間:谷晃、大西康雄、中山豊
  • 武野信介:笠原健司
  • 隠れ部落の男:大村千吉、 草間璋夫、加藤茂雄、
  • 案内人:西條悦郎、坪野鎌之
  • 警官:千葉一郎、熊谷二良
  • 案内人:緒方燐作
  • 雪男:相良三四郎
  • 雪男の子供:伊東隆

あらすじ【完全ネタバレです!】

主人公「飯田」とその恋人「道子」らが所属する「K大学山岳部」が冬の日本アルプスを散策中、部員2名(道子の兄「信介」と、その友人)が雪崩に巻き込まれるところから物語は始まる。

後に、2名が逃げ込んだ山小屋を捜索すると、小屋の主人と、部員1名の死体が発見される。
信介の死体はなく依然行方不明。
山小屋には、未確認生物の体毛と巨大は足跡が残されていた。

翌年、信介の捜索と、未確認生物の調査をすべく、飯田を中心とするK大学山岳部は、人類学教授の「小泉博士」と共に日本アルプスを訪れる。

しかしそこには、既に動物ブローカーの「大場」とその一味が雪男捕獲のために動いていた。
大場は、以前より雪男らしい巨大生物を目撃していたらしく、見世物にして一攫千金を狙っていたのだ。

ある夜、K大山岳部のキャンプを巨大生物が襲撃する。
すぐに飯島がその生物を追ったが、途中、崖から足を滑らせてしまう。

滑り落ちた谷底で、飯島は、文明社会から孤立した部落の娘「チカ」に救われるが、外界との接触を許さない部落の長の命令により飯島は岸壁に宙吊りにされてしまう。

絶対絶命の飯島だったが、そこに雪男が現れ救出される。
飯島はその瞬間、雪男が知性ある生物であることを確証する。

ブローカーの大場とその一味は、飯島を秘かに慕うチカをだまし、雪男の居所を掴むと、さっそくその場所に移動。
一味はそこで、息子と共に仲睦まじく暮らす雪男親子の姿を目撃する。

雪男親子を執拗に追い立てる大場一味。
なんとか捕獲に成功するも、その輸送中、子供を殺害してしまう。

激怒した雪男は、怪力で檻を破り、大場一味を皆殺しにすると、そのまま、怒り狂った状態で部落を襲い住民を全滅。
それでも怒りは治まらず、立て続けに、山岳部のキャンプまでもを襲撃する。

山岳部襲撃の際、居合わせた道子を連れ去った雪男は、噴火口のある隠れ家の洞窟へと向う。
あとを追いかけた山岳部一向は、洞窟の中で道子の兄「信介」の遺体を発見。
残されたメモから、雪崩に襲われたあと雪男に助けられ、食料を運んでくれたことが分かる。

また、洞窟内では、他の雪男の骨が発見される。
傍らに繁殖していた毒キノコのテングダケを見た小泉博士は、群れで暮らしていた雪男のほとんどがテングダケを食したことにより死亡したのだと推測する。

続いて一向は、噴火口の近くで道子を抱えたまま咆哮する雪男を発見。
飯島を慕うチカが、自らが犠牲になると言い、雪男に近づいていくと、それを見た雪男が道子を手から離す。

その隙に雪男に掴みかかるチカ。
チカと雪男が揉み合っている最中、部員の一人が放った銃弾が雪男に命中。

雪男は、チカを掴んだまま噴火口へと落ちて行った。

感想【完全ネタバレあり!】

愛と哀愁のキングコング

1954年11月公開の「ゴジラ」に続き、次の特撮大作として予定されていた本作。
しかし、「ゴジラ」の予想以上の大成功を受けた東宝は、本作を後回しにして「ゴジラの逆襲」の制作を先行させます。

結果、「ゴジラの逆襲」を1955年4月に公開し、その後、1955年8月に本作が公開。
ゴジラのヒットを受け、その後4カ月単位で特撮大作を立て続けに送りだす、当時の映画界の底知れない元気の良さに驚かされます。

もともと円谷監督は、ゴジラに携わる以前から、ハリウッドの「キングコング」の様な作品を日本でも作りたいと言う願望を持っていました。

紆余曲折の末、日本製初の怪獣映画は「ゴジラ」と言う原子怪獣になったわけですが、やはり、キングコングテイストの作品は捨てきれず、本作は、その円谷監督の希望を叶えるものとして進められたのではと推察します。

「秘境を訪れた人間が、未知の巨大生物と遭遇し、見世物にすることで一攫千金を狙う」という基本的なコンセプトは「キングコング」と同じですが、本作では、雪男の家族愛と、人間側の叶わぬ愛の描写に重きを置くことで、「キングコング」にはない、日本独特の哀愁を加えることに成功したと言えるでしょう。

封印された不遇の名作

この作品を語る上で、まず触れておかなければならないのは、やはり、この作品が現在の日本で、特にソフト化と言う点において、完全に封印された作品だと言うことです。

映画館での上映については、「足を運ぶ人だけが見られる」と言う制約があるからでしょうか、公開は可能の様です。
しかし、ソフト化となると、「不特定多数に見られる」と言う理由から、一切厳禁の状態です。

理由としては、この映画の中に登場する「部落の表現」が「差別的に写る」・・・と製作者側が危惧し、自らソフト化を封印してしまったことによります。

しかし、これまでに、その点についてクレームが寄せられたことは一度もないとのことで、なぜここまで完全封印するのか不思議でなりません。

確かに、そう言う目線で見れば、この映画に「差別」を感じる部分はあるかもしれません。
いや、厳密に言えば差別的表現はあります。

部落の中には、片目や片腕などの障害を持った住民が多数含まれており、そこには閉ざされた中での近親交配と言う少数部落の持つ悲しい現実が見て取れます。

しかし、これまで数多く作られてきた映画やドラマの中で、この作品だけが飛びぬけて差別的表現をしているかと言えば、個人的にはその様には感じません。

「山奥の集落と、そこに暮らす住民」

それは、秘境怪奇モノでよく見られるデフォルメされたアイコンであり、それ以上でもそれ以下でもなく、敢えて問題視するほどの表現ではないと感じます。

「ウルトラセブン」におけるスペル星人や、「ノストラダムスの大予言」における原爆投下後の世界など、昭和30年代後半から40年代にかけての特撮作品には、こう言った指摘がなされる作品が稀にあります。

しかし、それらを見ても、目くじらを立てるほどの表現ではなく、これまで私が見てきた映画の中には、こういった作品群よりも酷い表現にも関わらず、封印されていない作品は他にいくつもあります。

映画制作者やテレビ局は、一部のクレームに過剰に反応し、安全策を取ってしまうのであって、作品を観たい側の要望は後回しにされてしまうのが実情です。

まして本作は、どこからもクレームすら入っておらず、単に製作者側の忖度だけで封印されてしまった作品なのです。

是非とも、今後この作品が日の目をみることができますよう、切に希望する次第です。

控えめ且つ丁寧な特撮

この映画では、「ゴジラ」で見られた様な、精巧なミニチュアや、ビル群の破壊場面など、派手な特撮演出は見られません。

その変わり、マット画、光学合成、落下モノと言った、基本的な特撮技術によって、手を抜くことなく丁寧に仕上げられています。

まず、最も目を見張るのがマットペインティングです。

映画は、モノクロの東宝マークから始まり、続いてマットペインティングによる日本アルプスの壮大な風景をバックに、「獣人雪男」のタイトルが画面一杯に映し出されます。

見事な山脈のマット画が右から左に流れる中、牧歌的なハーモニカのメロディと不穏な旋律とが重なり合いながら、スタッフ、キャストを紹介していくタイトル表現は雰囲気抜群です。

この雄大なアルプス山脈のどこかで、これからどんな怪奇譚が始まるのだろうか・・・と、思わず期待を抱かずにはいられない、ワクワクするようなマットペインティングを満喫できるタイトルバックです。

また、中盤、主人公の飯田が崖から宙吊りにされるスペクタクルシーンでは、その飯田のバックに写る夕景の峰々の不気味さを表したマット画が見事です。

併せて、飯田の周辺を飛び交う鳥の群れの合成表現も素晴らしく、モノクロであることを完璧に意識した神秘的な特撮演出を見る事ができます。

雪崩、落石、トラックなどが落下する演出にも手抜きはなく、非常に重量感のある落下表現は、本物と見紛うばかりです。

洞窟内では、唐突にストップモーションを使った描写があって少し困惑しましたが、これは、雪男が道子を抱えて崖をよじ登るシーンがうまく表現できず、否応なくストップモーションを使ったとのことです。
しかし、そのギコチなさが返って洞窟内の神秘性と溶け合っていて、いい味付けになっていましたし、円谷監督がウィリス・オブライエンに宛てた、キングコングへのオマージュと捉えることもできるのです。

今回登場するクリーチャーは、基本的にはゴジラと同様「着ぐるみ」による演出方法が取られています。

雪男の姿が最初にハッキリと映し出されるのは、道子のテントの中を覗き込むシーンですが、テントの窓から覗きこむ場面は、恐ろしさの中にも知性が感じられ、獣人と言うよりも、人間への進化過程にある原人の生き残りと言った風貌が見て取れます。

口の開閉メカも備えており、肩から腕にかけての筋肉の盛り上がりやドッシリとした下半身など、全体のバランスも優れています。

当時の造形技術としては満点に近い出来で、完成度の高い着ぐるみ造形と言えるでしょう。

結局チカの物語でした

そして、何と言っても、この映画で大きな役割を担っていたのが、部落の娘「チカ」の存在です。
この映画の「哀しみの全て」を背負った役柄と言っても過言ではありません。

この映画におけるチカは、十代と言う設定でしょうか。
演じている根岸明美さんが色っぽいので、ルックス的には十代には見えませんが、その初な仕草から十代なのかと思わせます。

チカは、これまで、この山から出たことはないと思われ、都会的な大学生「飯島」に会った瞬間から彼に思いを寄せてしまいます。
「伊豆の踊子」の「薫」と同様の純情な気持ちです。

しかし片や飯島は、伊豆の踊子の学生とは違い、チカのほのかな思いなどどこ吹く風。
冷淡にチカとの距離を置きながら接していることが分かります。

そんな無垢なチカですから、動物ブローカーから「飯島に会わせるから」と騙されると、あっさりと雪男の住み家を教えてしまいます。

部落の中で「主」と崇められている雪男の居場所を教える事は、部落にとっては絶対的なタブー。
しかし、ひたすら飯島を慕うその時の彼女に、それを分かるはずもなかったのです。

そして映画は、あの切ないラストシーンへと繋がっていきます。

道子を抱えたまま、噴火口のすぐ横で咆哮する雪男。

道子を救出するため雪男に向かおうとする飯島を引き止め、チカは・・・

「女の私ならできるかもしれん。あんたのためにやってみる。」

と言い放つと、雪男に近づいていくのです。
部落を全滅させてしまったチカは、死を決意していたのです。

こうして映画は、人間が仕出かした卑劣極まりない行為に対し、激昂する怪物を鎮めることができるのは、私利私欲を持たない無垢な存在だけである・・・とでも言うように、全ての解決をチカに覆い被せて幕を閉じます。

この映画は、特撮SFでありながら、人間の愚かさと、その中に胸を締め付ける人間愛・家族愛を練り込んだ、大人の鑑賞にも十分に堪えうる作品に仕上げられています。

これほどの名作を、封印したままにしておく道理はないのです。

みんなが心置きなく鑑賞でき、語り合えるその日が来ますよう、重ねて製作側には、是非とも封印を解いていただきたいと切に願う次第です。

獣人雪男 (1955) 予告編???【映画】

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